2-39 ウェールズの村へ 


ワトソン氏と美しいウェールズの田園風景の中、(英語で!)おしゃべりしながら着いたのは、スワンジーとブレコン ビーコンの間にある小さな村。
そこには英語の語学学校はないどころか、村人たちは生まれてこのかた一度も外国人に会ったことも見たこともない人ばかりだという。

学校の語学コースは3か月が一学期なので、さしあたり新しい学期はどこの学校にも申し込まず、ウェールズでワトソン氏の家族と暮らすことにした。
学校へは行けなくても、日本語が全く使えない環境にいれば、毎日の生活が生きた英語の勉強の場だ。
私はまたとないいい機会だと考えて、新しい世界に飛び込んでみることにしたよ。

どこに行っても何にでも精一杯取り組んでいれば、きっと大丈夫。


ウェールズはイングランドとは民族も言葉も違う、もうひとつの国だったんだけど、イングランドに征服されてからイギリスの一部になってしまったんだ。
人々は今でも英語とは全く異なるェウェールズ語を話し、学校で英語を習うものの、スコットランドと同じくイングランドに対しての深い敵意と憎しみ、そして独立の望みを持っている。
一時は炭鉱の国として知られていたけど、多くの炭鉱は閉ざされ、廃墟となっている。
これといった産業もないので、イングランドに頼らなければやっていけないというのも現状のよう。

でもウェールズの大学の数はイングランドよりもずっと多く、イングランドで教えている教授の三分の一はウエールズ人だとか。
そういえば、スコットランド人も、

「イギリスは海軍が強いと言われているが、優秀な軍人はみなスコットランド
出身だ。
他から取るばかりで、イングランドには何も無いのだ」

と言ってたっけ。


 イギリスというとイングランドと思う人がよくいるけど、実は民族も文化も違う
 4つの国々(イングランド、スコットランド、 ウエールズ、北アイルランド)の
 総称なんだよ。
 つまり、”イギリス”= ”ユナイテッド キングダム (UK)”。

 そしてもうひとつの呼び名、”グレイト ブリテン” というのは、 北アイルランドを
 除くイギリス本島のことをいうらしい。 

 私も日本にいた時は、”グレイト ブリテン” が何だか知らなかった。 
 

ワトソン氏は、公平で信望のある炭鉱夫だったお父さんに、

「勉強が嫌いなら炭鉱夫になれ。
人間は世の中に生きている限り、勉強するか働くかしなければいけ
ないのだ」

と言われ、二週間、石炭を掘ったけど、暗くて空気が悪くて危険な足場での、腰を屈めての重労働に、
労働者への尊敬の念は学んだものの、

“これなら勉強した方がまだマシだ”

と思ったそう。

それから奨学金で英・米5つの名門大学の学位や博士号を取得。
物事をいろんな角度から見、考えられる人になろうと、神学、法律、文学、歴史、物理学、航空宇宙学と何でも学び、

はては
“ふつうの人間の本質を理解するためには、まず精神異常者の世界から”
と、心理学の研究に入り、テキサス大医学部での教授時代、学士院会員にもなったそう。

その後、パリにあるヨーロッパ宇宙開発機構の責任者になったけど、華やかな生活に意味のなさを感じ、教授生活に戻り、
95才のガンのお母様の具合が急に悪くなるまでは、オックスフォード大学で教えていらしたとか…
(”プロフェッサー” ではなかったみたいだけど)

そういえば、オックスフォードのワトソン氏の応接間のドアに掛けてあった、黒くて大きくて袖の長い、作業マントのような布…(?!)
ナンと! あれこそ、深遠なるオックスフォード大学教授のはおる、厳粛にして名誉ある黒ガウンだったのです。

学歴や地位にも驚いたけど、それらを全部捨てて母の看病に専念しているワトソン氏に、人間的暖かみを感じたよ。

米国ナサ基地での、科学者顧問としての宇宙開発パイオニア時代、パナマ運河建設計画に関わった際の科学的な障害の乗り越え方など、
おもしろくて、ウェールズまでのドライブは、あっという間。


ところでさぁ、気がついた?
私、いつの間にか英語でこんなあんなをワトソン氏とおしゃべりできるように
なってない?!

ワトソン氏は仕事で世界中を飛び回り、外国人といっしょに仕事したり教授をされたりして、相手にわかりやすい英語を話すことに慣れていらっしゃるのだろうけれど、
それにしても自分でびっくりだよ。 …ね!

最初は会話を聞いていても、全部つながって聞こえて、ところどころの単語を拾うのがやっとだった。
そのうち、ひとつひとつの単語のくぎりや、わからない単語とわかる単語が識別できるようになり、
わかる単語の数が増えて、わからない単語の意味を前後の文脈から想像して全体をの意味がつかめるようになって来た。

やっぱり英語の環境にいるってことが強みだよね。
生活するのに必要だから、わかろうといつもアンテナを張り巡らして全身を耳にしてるんだ。

少ししかわからない頃は、会話の内容にも限界があって、お天気だの ”どこへ行った”とか、”何を食べた” とかいう簡単なことしか話せなかった。
でも、耳が慣れ、よく使われる単語や言い回しがわかって来たら、自分でもそれらを使って少しずつレベルの高いことも会話に入れられるようになって来た。
それが相手に通じた時の嬉しさ!

聞いてわかり伝えることもできるようになると、話すことがどんどんおもしろくなってくる。
毎日世界が広がって行くようで、わくわくだヨ。
きっと、小さい子が言葉を覚える時の興奮と同じなんだろうね!
言葉は本当に ”生きている” んだって思う。

これからウエールズでどんな人たちに会うのか、その人たちとどんな会話ができるのか、楽しみだね!




        ミニ ウェールズ案内




Taf Fechanの谷とCraig Fam-Ddu

ブレコン ビーコンから眺めた Taf Fechan の谷 と Craig Fam-Ddu 
(地名からも、英語との言語の違いがわかるでしょ)



Wales牧場

ウェールズの牧場

羊飼いわんちゃんたちが、羊の番をしている。
定時になると、羊をじょうずに追いやって柵の中に入れるんだヨ。
すっごく賢い。







2-40 ミセス ワトソンとの出会い 


家に着くと、何百キロもありそうで、視力を完全に失いかけているという、ワトソン氏の妹のアネッカが私を斜めに見て、

「まあ!!
日本人の女の子が来るっていうから、髪を頭のてっぺんで縛り上げておまんじゅうにして、裾の割れているキモノを着て来ると思ったのに!
どうしてヨーロッパの服を着てるの?!」

それが彼女の第一声だった。
ゆっくりとした口調だけど半分あざ笑っているようで、そして頭の中心がキーンと痺れそうに高い声だ。

それから、
「日本では猫を食べるのですってね。
だから私たち、決してチャイニーズレストランには行かないのよ」

と、ソファの上で無心に眠っている愛猫のジミーを横目で見ながら気味悪そう
に言い、

「日本ていうと、先の尖った山と木の橋とゲイシャの絵しか思い浮かばないんだけど、テレビで見たことあるわ。
みんなわらの床の家や、ボートに住んでいるんでしょう?」

しごくまじめに。
日本と中国の区別もつかないようだし、東南アジアのどこかの国と混同しているみたい。

ワトソン氏は、
「申し訳ない。イギリスの学校では日本のこと何も教わらないから、地方の人々は何も知らないのだ」

と、あとで謝って下さったけど、
あまりの知られてなさに、悲しくなって来た。


ワトソン氏のお母さん、ミセス ワトソンは、95才。
10年前にガン、5年前に脳卒中で右半身不随になられたのに、通いの専門医、看護婦さん、そして家族の手厚い看護と励ましのうちに、病苦と闘いながら命を取り留めて来たんだって。

5年前、付き添いをしていた妹のアネッカが目の大手術を受けて精神混乱に陥って以来、ワトソン氏はすべての役職を投げ打って、オックスフォードの5軒の学生アパートの管理と、お母さんの世話に往復する生活に入った。


さあ、気分の良い時を見計らっての、お母さんとの対面だ。

ミセス ワトソンは、やせ細った顔に重そうな厚いメガネをかけて、幼い子どものようなあどけない表情で口を少し開けたまま、私をじっと見つめた。
私も不思議な感情に打たれ、彼女の潤んだ目の奥に見入った。
老母は本当に泣いていたんだ。

「そんなに遠い国から、一人で来たの?
それも、こんな田舎に、私の世話をしに?」

かぼそい、消え入るような声でそう言って、動くほうの手をモゾモゾするので、アネッカが何事かとふとんをのけると、老母はその手をゆっくり顔に持って行き、涙を拭うために指をメガネの下にくぐらせた。

私はドキッとしたよ。
日本の病院で付き添いをしていた時、うちのおばあちゃんがしたしぐさと全く同じだったから。


それからというもの、私はこのミセス ワトソンの付き添い役になった。
毎朝来る看護婦さんの補助をしたり、他愛ないおしゃべりをしたり、流動食を作り、温度を計って一口ずつ食べさせたり…

口を閉じて首を横に振る彼女に、
「はい、グッドガール! もうひと口。 あーん」


彼女は毎日、そばに来る人に、

「あの子は私を何て呼んでいる?
マム(お母さん)と呼ぶように言いなさい」

と確認したけど、ほんとはどっちがお母さん役かわかったものではなかったさ。 






ミニ ウェールズ案内



ウェールズの位置
イギリス地図


横向きカンガルーのお腹のあたりって感じ?!

(地図はイギリス政府観光庁の公式サイトよりお借りしました)




ウェールズの絵葉書 1

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↑ ウェールズ語で何か書いてあるけど、さっぱりわからないよね!




ウェールズの絵葉書 2

ウエールズ民族衣装の子どもたち

民族衣装を着た子どもたち

白いレースのついた黒いシルクハットがユニークな民族衣装

スコットランドの民族衣装であるタータンチェックは超有名だけど、
ウェールズのはあまり知られていないかな?





ウェールズの絵葉書 3

ウエールズ民族衣装

民族衣装を着た大人の女性





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 下に おまけ ある↓





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