2-32 ベルン大聖堂 


バタン、バタンとパトカーのドアの音。
冷気に高らかに響き渡り、体格のいい警官たちが懐中電灯を手に迫り来て、

「何者だ?! ここで何をしている?!」

亮介兄さんたちのワーゲンバスが、日本赤軍に間違えられてドイツ警官にぐるりと囲まれ、全員独房に放り込まれたというのは、つい数週間前のお話。 一瞬、どうなるかと思った!

けど、何も悪いことはしていないので、にっこり笑って、
「旅の者です。」

仲間たちも引きつる顔で、
「ホテルが見つからないので、ここで夜明かしすることにしたのです。」
と、口々に。

パスポート、学生証を念入りに調べられたあと、お巡りさんは、手柄を立てそこねて気落ちしたのか、それとも、赤軍派の攻撃に命を落とさずにすんでホッとしたのか、急に気を緩ませて、

「エクスキューズ ミー。 このところ日本赤軍が暴れているのでね。OK。
なんだったらホテルまで誘導してあげようか?」

「いいえ、結構です。 もう夜も明けますから。

でもなぜ、私たちがここにいるとわかったのですか?
こんなへんぴな町はずれ?」

「近所の人が通報して来たのだ。」

あたりの家々の、ひとつひとつの暗い窓のうしろから、良市民の視線
がいっせいに注がれているような気がしてゾーッ。

「じゃ、良い旅をね!」
「ダンケ。グッバイ!」


それにしても同じ日本の若者でも、世界各地で過激な行動を取り、人々を恐怖におののかせている赤軍派もいれば、私たちのように自分が生きるのに精いっぱいの放浪人もいる。

誰も世界平和、世の中の改革を願っているのは同じだと思うけど、自分たちの主張を通すために罪のない人々の命まで巻き添えにするのはいけないと思う。
パリでも、今まで親日家だった人々でさえ、相次ぐ日本赤軍のニュースに、日本人に冷たくなり、中には下宿を追い出された人もいると聞いた。


朝焼けのスイスの国境を越えると、そこは夢の国。
アルプスの山々を背景に、何もかも研ぎ澄まされた美しさ。
首都ベルンへ下る丘の上から町全体を見下ろした時は、まあ、立体絵画を見ているようだった。
中世のままの旧市街地の塔や、赤茶色の煉瓦屋根の家々、緑の木立が、湾曲して流れるアーレ川に澄んだ影を落として。

旧市街地では、石畳の道に、古い噴水、人形や動物の彫刻のついた時計台が、どこを曲がっても、私たちを子どもに還ったように喜ばせてくれた。


ひとくちメモ
この美しいベルンの旧市街は世界遺産に登録されている。
それに、1905年まで、アインシュタイン博士はベルンに住んでいたんだって。


優美なゴチック大寺院の尖塔めざして路地を迷い行くと、美しい合唱が流れて来た。
がらあんとした礼拝堂で白ガウンをまとった天使たちが、クリスマスコーラスの練習をしていたんだ。

ステンドグラスを通った夕陽のかけらが床にちろちろ、色とりどり、かげろうを落として、息づいて揺れているようだった。


もうすぐクリスマス。
雪よ、降れ降れ。








ベルン大聖堂
 
ベルン大聖堂 (絵葉書)
後期ゴチック建築の傑作。スイスで最も高い尖塔。 







ベルンの劇場

ベルンの劇場 (絵葉書)






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