2-16 大家さんいない! 


日が暮れて電燈も点いていない下宿の玄関先に、車で横付けして降り立って来たイギリス人青年。
大家さんの息子さん、それとも下宿人のひとり?

「あなたはここに住んでいる人ですか?」

すがるように聞くと、彼はきつねにつままれたような顔をして、

「No. My girlfriend lives there. 」
(いや。僕のガールフレンドがあそこに住んでるんだよ)

と、3階を指差して見せる。

私が、知っている限りの単語を並べて説明しても、
「I don’t know」 (知らない、わからない)
気の毒そうに返事するばかり。

幸いなことに待ち合わせていたのか、彼のガールフレンドがそれからすぐに帰って来て私と彼をいっしょに自分の部屋に通し、ミルクテイーを入れてくれた。

彼女が言うには、
大家さんのミセス ロビンソンはご主人を2週間前に亡くして以来ずっと留守で、他にも下宿人はいるけれど私のことは何も聞いていないと言う。

彼女にもどうすることもできなくて、日本のことを聞いたり、オックスフォードの話などを聞かせてくれているうちに、

「そうだ! 半地下に空き部屋があるみたい。
独立していて入口も鍵も別だから入れないけど、ひとつ窓がこわれて板が打ち付けてあったわ。
そこから入れるかも。

私の彼にそれを剥がしてもらいましょ。」 (モチ、英語で)


そして約30分後、窓から不法侵入した私は、わりと広い、家具付きの部屋のベッドの上に座っていた。
何だか悪いことをしているみたいでとても落ち着けなくて、荷物を解く気にもなれないよ。


すると窓の外に、黒いレインコートに大きなスーツケースを引きずった日本人の男の子(実は同い年)が現われ、むこうもびっくりして私を見下ろしている。

その名は御手洗博人君。

聞けば、彼も今日、学校でここの住所をもらって来たんだって。
それまでの2日間は、
「ヘイ、タクシー! ホテール!」
の結果、最高級ホテルに連れて行かれ、そこで時間を潰していたとのこと。

その半地下には他に人の住んでいるらしい部屋がふたつと、台所、バスルーム、トイレがあり、独立した家のようになっていたけど、空いているのはそこひと部屋だけ。
二人とも一人部屋で申し込んだんだけど…。


「大家さん、帰って来そうにないな。いいじゃないか、今日はここで二人で泊まれば。」

「えーっ! まさかぁ! 
あの、オックスフォードのユースホステルってどこにあるか知ってます?」

「さあね、僕はホテルにしか泊まらないからね。」

「…」

「仕方ない。僕、今晩もホテルに泊まるわ。」

「いいの? ごめんなさいね。
ところで三日もいるならどこか安くておいしいレストラン知ってます?」

「知らないなあ。 高いレストランでステーキばっかり食べてたから。
僕も夕食前だから、一緒に出てみようか。」

また窓から出て蓋をして、私たちはすっかり闇のとばりに包まれた通りをメインストリートに向かって歩き出した。
人通りはほとんどなく、空気は冷え込んでいた。


「これからどのくらいいるんですか?」

「一年」

「一か月どのくらいかかるかしら?」

「10万円は要るだろう。」

「えーっ、そんなにー? 
イギリスは物価が安いから月3万5千円で足りるって聞いたけど…。」

「冗談だろ。どうするの君、そんなことで。」

「お仕事は?」

「ん? 社長だよ、将来は。
おやじが社長だもんでね。」





ミニ オックスフォード案内




学生下宿のある通り   学生下宿がたくさんある通り
   のひとつ








一般的な家   一般庶民の家
   
   二世帯続きで、隣は別の家











庭   その裏の庭と若い家族

   一般庶民の家はもちろん、
   学生下宿もみんな
   けっこう広い庭付きだった








オックスフォード駅近く   オックスフォード駅を背に
   町の中心地に通じる道を
   撮ったところ








マグダレンカレッジ   車で来た場合にオックスフォード
   の入口あたりにある、
   
   モードリン(マグダレン) カレッジ
   絵葉書

   夏目漱石が、このタワーの水彩画を
   残している。
   (東北大学付属図書館蔵)





カーファックス   賑やかな町の中心にある、
   「カーファックス」と呼ばれ
   る交差点絵葉書  
  
   時計塔があるので、
   よく待ち合わせに使われる






 ほとんどの写真はクリックすると大きくなるよ



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