1-10 地上遙か 


空港に着いた。

集合場所に辿り着いておそるおそるあたりを見渡してみると、若者たちがそれぞれの相棒や仲間たちと話している。
緊張と期待あふれる空気の中で。

ひとりぼっちは私くらいなもの。
ドキドキ…。

ほんというと私、近くの町へ行く電車の乗り換えもよくわからないんだ。
この私が、飛行機に乗って、外国の見知らぬ町へ行くんなんてね!
着いてから、いったいどうすればいいんだろ…

急に不安になってきた。

だけど、ここで泣き出してはもとのもくあみ。
もう、引き下がれないよ!
平ちゃらな風を装って、旅慣れた旅人のふりでもして、飛行機に乗り込むっきゃない…

覚悟を決めました。

これだけたくさんのバックパッカーがいるからには、パリでユースホステルへの道を同じくする人たちもいるに違いない、
と予想をかけて、半ば安心はしてたけど、こっちから話しかけて行く勇気は出てこない。

さあ、学生貸し切りのエアーフランスのジャンボジェットに搭乗!
日本の大地から、足を離したよー、とうとう!!
感激と不安で胸が張り裂けそう。

座席番号を頼りに窓際のシートのひとつに収まると、金髪と青い目に紺のユニフォームの似合うフライトアテンダントが、
私の手荷物を頭上の棚に上げてくれようとするので、私は戸惑いながら断わった。
英語を外国人に向かって使うなんて、生まれて初めてだよ。
胸ドキドキ。顔ポッポッ。

でも、決してその手提げかばんの中に貴重品や札束が詰まっていたわけではありません。
それどころかその内訳といったら、茶色がかったリサイクルペーパー製の旅行情報誌、英会話の本、それに筆記用具に洗面道具…なんてとこ。.
底に沈む唯一の貴重品といえば、“日本らしいものを”と叔母さんが贈ってくれた真珠の指輪くらい。
お金とパスポート、ユーレイルパスやトラベラーズチェックなどは、肩から斜めにクロスさせてぶら下げている小さめバッグに入れてある。
これは何があっても肌身離さず持っているつもり。

夜9時をまわる頃、安全ベルト着用の指示があって、機体は唸りをあげて夜の滑走路を走り出し、大きく傾いたかと思ったら、あららっ、もう空の上。

「おかあちゃ~ん!」   ~⊂´⌒∠;゚Д゚)ゝつ 

手に汗握る大スペクタルだったよー、私にとって。

告白すると、私、今でもなぜあんな大きくて重い機体が空に浮かぶのかわからない。
電話で相手の声がそのまま聞こえたり、テレビの画面に遠くの人や風景が映ったりするのも不思議だけど…。
ほんとすべて魔法だね!

魔法の鳥に乗って目をつぶると、もうすぐ夢に見たあのパリの街角に運ばれているってわけ。

エンジンの音もほとんど聞こえず、翼のはばたく音もせず、
うららかな春の海をそっと滑っているよう。
何千メートルの上空をものすごいスピードで飛んでいるなんて、
誰が何といったって信じられない。


そうそう、ずっと気になって、バッグの中で大事に温めていたあの小さな包みを開けてみたら、金色(25金張り!)の腕時計が出てきた。
シンプルで薄くて文字版が大きくて、ベルトはシックな黒の牛皮製。

私、腕時計は持っていたけど、子どもだましのような安物だったんだ。
旅をする人にとって、すごく嬉しいプレゼントだった。
みんなの気持ちに、ありがとう。
いつも身につけることにする。


目的地までは17時間の空の旅。
暗闇の中に月明かりに照らされた地表が見えたのはほんのしばらくのことで、すぐに視界はあたり一面、雲の海になってしまった。
その下に私たちが住んでいる地球があるなんてねー… ∑(゜∀゜)。

食事に出てきた油っこいフランス料理をいただき、油絵を表紙にあしらった、すでにフランス的情緒を覗かせているデザインの
メニューカードの裏表を珍しそうに眺めていると、もう心細く、ごはんが恋しくなってくる私なのでした。ぐすん。。。





夜の地表

夜の地表



(第二章 ヨーロッパ編 に続く)

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