2-15 オックスフォードの日は暮れる 

日本で申し込んでおいた学校のコースが9月2日から始まるので、ろくろくロンドン見物もせず、A子さんとB君に送られて目的地のオックスフォード行きの電車に乗った私は、またひとりぼっち。

夏期講習の地にオックスフォードを選んだのは、ロンドンのような大都会よりも静かな大学の町の方が良かったから。

ハーバードやケンブリッジと並んで、世界一とか言われている大学のある町。
大学に入れなくても、その学生生活の雰囲気に触れるだけでも光栄じゃない?
ヨーロッパ諸国への旅に出る前の短い期間でも、勉強するにはいい環境でしょ。


その私も、いざオックスフォードに着いた時にはめんくらった。
駅の前で、学校への案内図を片手に行ったり来たり。
そんな番号のバス、どこにも見つからないんだ。

通りかかった人に聞いても、

「ノーノー、ノット ヒア、ペラペラペラ」
「サンキュー。??」

半分泣きっ面で立っていると、駅前に停車している運転手付きの立派な車に乗っていた品のいい紳士が降りて来て私の紙をのぞき込み、優しく微笑んで、どうやら車に乗れと言っているみたい。

ちょっと不安そうにしている私を見て、ちょうど駅を出て来た尼さんにも声をかけ、

「いっしょに乗りなさい。」

親しそうに話している3人と私を乗せた車は落ち着いた住宅地を抜け、レンガ造りの建物の前に止まった。

看板も出ていないけれど、これが、私の目指していた学校のよう。

紳士は私の入学証明書を持って事務所らしい部屋へ入って行ったけど、すぐに手招きして私を呼び、頭を撫でながらにこにこ笑って何か言って出て行こうとするので、私は急いでポーチの中から鈴の付いたポックリのお守りを取り出してお礼にと差し出したんだけれど…
受け取ってもらえなかった。

運転手さんも尼さんも、窓から手を振って「グッドバイ」。
本当にありがとう!


さあ、それからがまた大変。
秘書さんからもらった下宿の住所と地図をもらってやっとのことでその家を訪ね当てたまではよかったんだけど…
いくらベルを押しても誰も出てこないんよ。

おまけにドアの前には溜まりに溜まった郵便物と中身の入った牛乳びんが埃をかぶっている。

ホームステイは食事も付いてメチャ高かったから、私は朝食のみ付きで夜は自炊ができる下宿を選んだ。
だから、『大家さんは待っていてくれる』 と信じてた。

大家さんは、今日、私が着くことを忘れて、夏のバカンスでどこかへ行ってしまっているの?

(後でわかったことだけど、イギリスでは長期休暇のことを “ホリデー” っていうんだよ。
“バカンス”っていうのは、アメリカ英語なんだって)

もう何か月も前に学校と下宿の手続きを済ませて来たのに…。
ひどいよね、外国から言葉もわからない国へ来た生徒にこんな思いをさせるなんて…。 グスン。

荷物を持ってまた学校に引き返しても、もう5時過ぎ。
きっと事務所は閉まってしまったと思う。

玄関のポーチの階段に座って途方に暮れていると、とうとう日もとっぷり暮れてしまった。

そのあたりは、白枠の大きな出窓のある、ほどよく風化された石造りの家々の並ぶ静かな住宅街で、それぞれの家にはゆったりとした前庭があり、部屋も3~4階に、屋根裏部屋までありそう。
お隣さんとは1メートルほどの高さのレンガ塀で仕切られている。
車はおろか、猫一匹通らない。

不安と心細さに涙が零れそうに…。

『私は今日、どこに泊まればいいんだろう…。』

まさに溜まった涙が目から落ちるー、というその時だったよ。
一台のボロワーゲンがその家の前にきしんで止まり、イギリス人らしい若い男性が降りたって来たのは。





 ミニ観光案内 オックスフォード大学



 ↓ オックスフォード大学の絵葉書(一部)

OX大学空から絵葉書

 (クリックすると拡大できて、もう少しよく細部が見えるよ)



オックスフォード市は、”街の中に大学がある” ケンブリッジ市に対し、
大学の中に街がある” と表現される。

オックスフォード大学は、ひとつの大学じゃなくて、40いくつの
カレッジの総称
なんだ。
それぞれのカレッジに歴史と伝統があり、校舎とキャンパスとチャペル
と、学寮とかがある。
たとえば、その中のひとつ ”ニューカレッジ” でも、600年以上の歴
史があるんだよ。(1379年創立)

これから1年半住むことになるので、またおいおい紹介して行くね!



ボードレアン図書館外から

ひとつ上の絵葉書の左下にあるドーム型の建物、
ラドクリフ・カメラ(ボドレアン図書館の一部)
世界的に古くて由緒ある図書館で、聖書の原書もあると聞く。




ボードレアン図書館とカレッジ

上の絵葉書の左下から、図書館をかすめてやや右上方向を見てい
る感じ。 むこうに見えるのは何てカレッジだっけ…
わかる方は、ご一報下さい。


(”オールソウルズ カレッジ” だそうです。ありがとう。)



ボードレアン図書館内部

この写真は数十年後に訪れた時に撮ったもので、
”女の子” と呼べる年ではないため、ぼかしました (;・∀・)
でも、図書館の内部を見せしたいので載せたヨ。


この図書館の内部は、一般公開されていないけれど、
ハリーポッター・賢者の石」 編の撮影に使われた。
映画のラスト、病院のシーンはこの建物の中だし、魔法学校に出てく
る図書室も、ここの図書室だって!



ボドレアン図書館内部

ボドレアン図書館内部 (絵葉書)



  ら 


お話が進むペースが日記風でゆっくりなので、「スポット訪問記」も
  平行してがんばって書いています。

  今回は、「Vol. 5 ウイスラー&ブラッコム山 他
  バンクーバー市街地から見える雄大な山々をヘリコプターから
  見下ろすよ。
  そっちもいっしょに見てね!





2-16 大家さんいない! 


日が暮れて電燈も点いていない下宿の玄関先に、車で横付けして降り立って来たイギリス人青年。
大家さんの息子さん、それとも下宿人のひとり?

「あなたはここに住んでいる人ですか?」

すがるように聞くと、彼はきつねにつままれたような顔をして、

「No. My girlfriend lives there. 」
(いや。僕のガールフレンドがあそこに住んでるんだよ)

と、3階を指差して見せる。

私が、知っている限りの単語を並べて説明しても、
「I don’t know」 (知らない、わからない)
気の毒そうに返事するばかり。

幸いなことに待ち合わせていたのか、彼のガールフレンドがそれからすぐに帰って来て私と彼をいっしょに自分の部屋に通し、ミルクテイーを入れてくれた。

彼女が言うには、
大家さんのミセス ロビンソンはご主人を2週間前に亡くして以来ずっと留守で、他にも下宿人はいるけれど私のことは何も聞いていないと言う。

彼女にもどうすることもできなくて、日本のことを聞いたり、オックスフォードの話などを聞かせてくれているうちに、

「そうだ! 半地下に空き部屋があるみたい。
独立していて入口も鍵も別だから入れないけど、ひとつ窓がこわれて板が打ち付けてあったわ。
そこから入れるかも。

私の彼にそれを剥がしてもらいましょ。」 (モチ、英語で)


そして約30分後、窓から不法侵入した私は、わりと広い、家具付きの部屋のベッドの上に座っていた。
何だか悪いことをしているみたいでとても落ち着けなくて、荷物を解く気にもなれないよ。


すると窓の外に、黒いレインコートに大きなスーツケースを引きずった日本人の男の子(実は同い年)が現われ、むこうもびっくりして私を見下ろしている。

その名は御手洗博人君。

聞けば、彼も今日、学校でここの住所をもらって来たんだって。
それまでの2日間は、
「ヘイ、タクシー! ホテール!」
の結果、最高級ホテルに連れて行かれ、そこで時間を潰していたとのこと。

その半地下には他に人の住んでいるらしい部屋がふたつと、台所、バスルーム、トイレがあり、独立した家のようになっていたけど、空いているのはそこひと部屋だけ。
二人とも一人部屋で申し込んだんだけど…。


「大家さん、帰って来そうにないな。いいじゃないか、今日はここで二人で泊まれば。」

「えーっ! まさかぁ! 
あの、オックスフォードのユースホステルってどこにあるか知ってます?」

「さあね、僕はホテルにしか泊まらないからね。」

「…」

「仕方ない。僕、今晩もホテルに泊まるわ。」

「いいの? ごめんなさいね。
ところで三日もいるならどこか安くておいしいレストラン知ってます?」

「知らないなあ。 高いレストランでステーキばっかり食べてたから。
僕も夕食前だから、一緒に出てみようか。」

また窓から出て蓋をして、私たちはすっかり闇のとばりに包まれた通りをメインストリートに向かって歩き出した。
人通りはほとんどなく、空気は冷え込んでいた。


「これからどのくらいいるんですか?」

「一年」

「一か月どのくらいかかるかしら?」

「10万円は要るだろう。」

「えーっ、そんなにー? 
イギリスは物価が安いから月3万5千円で足りるって聞いたけど…。」

「冗談だろ。どうするの君、そんなことで。」

「お仕事は?」

「ん? 社長だよ、将来は。
おやじが社長だもんでね。」





ミニ オックスフォード案内




学生下宿のある通り   学生下宿がたくさんある通り
   のひとつ








一般的な家   一般庶民の家
   
   二世帯続きで、隣は別の家











庭   その裏の庭と若い家族

   一般庶民の家はもちろん、
   学生下宿もみんな
   けっこう広い庭付きだった








オックスフォード駅近く   オックスフォード駅を背に
   町の中心地に通じる道を
   撮ったところ








マグダレンカレッジ   車で来た場合にオックスフォード
   の入口あたりにある、
   
   モードリン(マグダレン) カレッジ
   絵葉書

   夏目漱石が、このタワーの水彩画を
   残している。
   (東北大学付属図書館蔵)





カーファックス   賑やかな町の中心にある、
   「カーファックス」と呼ばれ
   る交差点絵葉書  
  
   時計塔があるので、
   よく待ち合わせに使われる






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