2-43 虎屋の羊羹 


ウェールズにいる間はね、ちゃんとお休みとお小遣いをいただいていたので、訪ねて来たオックスフォードの友人たちなどと時々小旅行に行くことができたんだよ。
近くのお出かけには、ワトソン家でも連れて行って下さったし。
(マムをメイドさんにお願いして、ね)

イギリスではあちこちに、昔のかつてのおもかげがすっかり消え失せたお城や修道院が風雨に晒されるままになっている。
何世紀も前のものがたくさん…
かつての力や栄光、貴族の宴、豪華に着飾り踊ったであろう貴婦人たちの面影を追い、歴史の秘める哀愁に打たれたよ。
”国破れて山河あり” や、荒城の月の歌詞が聞こえて来るようだった。

夏の海岸線はオアシス。
海岸ギリギリまで緑で、塩の香りも波の音もしないので、絵を見ている
ような錯覚に陥る。
(前回のミニアルバムにも載せた)

地方ではバスに乗って来る人全員顔なじみで、ひとりひとりと世間話を交わしながら陽気にバスを走らせていた運転手さん、途中でバスを止め、「ちょっと待っててね」と言っていなくなったまま、20分経っても戻って来なかったりするんよ。
平気な顔をしている他の乗客に聞くと、
「お茶でも飲みに行ってるんでしょう」
というのどかさ。

ここウェールズでも、一日に何度もミルクティーを飲まないと何も進行し
ない。

マムの具合は相変わらず… 
お天気のいい日は、庭いっぱいに風を切る洗濯物のそばでロッキングチェアの中に埋もれて、芝刈りをする私を眺めたり、
またある日は、意識が薄れて誰が何を言ってもわからなかったり…

家からね、夏物と日本食品の間に混じり励ましの手紙とお小遣いが届いたよ。
祖母はガンの手術後は再発のきざしもなく、祖父に世話をしてもらいながら、細々と感謝の日々を送っているって。
私が「ウェールズの小さな村で看病のお手伝いをしている」 と聞いて、

「えらいことだね、美弥ちゃんはどこへ行ってもそういうことを頼まれる運命なんだね」

って笑ったそう。(おばあさん、ごめん、そばにいなくて)


さて、小包みに入っていたインスタントラーメンは好評だったんだけど、
虎屋の高級羊羹、これいかに。

「なぜこんな銀紙に包んであるの?」
「濡れてて気持ち悪い」
「味も匂いもないわね」
「いずれにせよ、毒じゃないでしょ」

(看護婦とアネッカの会話)

ワトソン氏、もおそるおそる角をかじり、
「悪くはないよ」

おみやげに持って行った近所の家々でも、5ミリかじっただけで、ゴミ箱行き。
全く同じ感想を述べるんさ。

日本の代表的銘菓の傑作、日本の誇り、虎屋の羊羹…
私の心は痛んだ。
これは国際的一大事、すぐに虎屋の社長さんに報告書を送らねば…!

虎屋の名声についても羊羹についても何の基礎知識もないウェールズの庶民が、羊羹を、
"得たいの知れない、水っぽくて気持ちの悪い、味も香りもない、不衛生な工程で作られた野蛮な国のお菓子"
と思っても、無理はないかも。

日本は藁を敷いた床の上で暮らし、沢山の貧民がボートに住んでいると信じて疑わない人たちだもの。
いかに吟味された原料から、近代的、衛生的設備の中で、白衣とマスクの従業員たちの手によって謹製されているか、
また、ただ甘ければいいような洋菓子と違い、和菓子のデリケートさや、いただき方、器などへの心配りなど、どうして説明できよう。

あぁ~ん、くやしいよーぉ!
うまく説明できない自分に、そのつたない英語力に、がっくりこ。

それでウェールズの庶民の羊羹との遭遇に際しての正直な反応の一部始終を綴り、

「虎屋さんともなれば、英語のできる秘書さんもいらっしゃるでしょう?
英文の羊羹の説明書を送っていただけないでしょうか。
日本を正しく理解してもらうため、また羊羹の汚名を晴らすため、どうしても必要なのです」

というお願いといっしょに、虎屋の社長さん宛てに送っちゃった。
封筒の裏には、
「社長さん、国際的一大事です」
と、私が泣きわめいているイラストを入れて。

さあ、果たして、天下の虎屋さんから、
しがない、いち大和なでしこ(?)の 絶望の淵からの叫び への
お返事は来るのでしょうか??





ミニ観光案内  デボン州とその周辺 つづき  
 

      イギリスの地図

180px-Map_of_Wales_within_the_United_Kingdom.png 200px-Torquay_-_Devon_dot_20081125021218.png

前と同じ地図をイギリス政府観光局HP&ウィッキペディアから
お借りしました。



イギリス本土がカンガルーで、赤いお腹の部分がウェールズだとする
と、ふくらんだ膝とふくらはぎのあたりがデボン州
その先がコーンウォール半島ってとこかな。

前回出て来たトーキーが右の地図の白いマークで、ニューキーは、
足の先っぽにある。
(なんという地理説明なんでしょう!!)




Devon絵葉書

デボン州の絵葉書






Devonの海岸2

デボン州の海岸 絵葉書



Devonの海岸







ストーンヘンジ絵葉書

デボン州、ソルズベリー地方にある ストーンヘンジ。世界遺産。



ストーンヘンジ

お休みに訪ねて来てくれた友人たちのオートバイの後ろに乗っけて
もらって行ったので、ヘルメットを持っている。


こんな巨大な石を古代の人がどこからどうやって運んで来たのか、
どうやって積み上げたのかとか、形状、材質を始め、
配置も天文学的に計算されたりしていて、謎が多い。

ストーンヘンジ (ウィキペディアへ飛ぶ)




ストーンヘンジイラスト

(スクラップブックに描いたのをそのままコピーしたので、こんな紙で
ゴメンね
焦る3





デボン州、バース(Bath) の町の橋

川では子どもたちがカヌー遊びをしている。


Bath.jpg  


Bathの町


イギリスでは珍しい温泉の町。 お風呂(bath) という単語はこの土地
の名前から。 街並みは世界遺産になっている。




Bathローマン風呂

バースのローマン風呂


バース(Bath)は、イングランド西部、サマセットにある都市である。
人口は9万人強。
三つの源泉から供給される温泉で著名であり、イングランド有数の
観光地である。

最近までは温泉施設跡を見ることしか出来なかったが、市内中心部に
鉱泉を利用した温泉総合スパ施設サーメ・バース・スパが作られて、
入浴する事も出来るようになった。(ウィキペディアより)



たぶん、水着を着てだと思うよ。







CORFE城

コルフ城跡 絵葉書  

デボン州の向かって右並びにある、ドーセット州に。

978年にエドワード王によりコルフ村を見下ろす丘の上に建設されたが、
内乱で廃城になり、そのままに。








ソルズベリー寺院

              ソルズベリー寺院アップ


   外壁の彫刻が美しい ソルズベリー大聖堂

   ソルズベリーも、街並みが世界遺産になっているんだよ。






2-44 ローアーケンブリッジに合格 


それから数週間後、旅行に出ていた私の留守中のこと。
ウェールズの小さな村の郵便局に、東の国から海を渡って何やら重たい小包が届いた。

ワトソン家では開けてびっくり。
さまざまな美しいパックに入った羊羹が、わんさと出て来たんだ。

“上品な和菓子” と題する英文記事のコピーに始まり、きれいな写真入りの虎屋のお菓子のパンフレットには、
藁敷きは藁敷きでも、日本の畳の上で菓子折箱を差し出している着物美人、衛生的工場での製菓工程の写真も大きく載っていて、虎屋の会社案内にはモダンなオフィスや社員寮、はては海の家、山の家まで紹介されていた。

旅行から帰って来た私に、アネッカは、
「なぜあなたは、こんなことに大金を使うの?」
と、食ってかかったほど。

そしてその荷物の中には、何と、虎屋の社長さんからのじきじきの励ましのお手紙が入っていた。
長くてていねいな文面で、

「日本には外人の虎屋菓子ファンも多いが、文化も風習も違うウェールズの村で大奮闘のあなたを応援します。
これからも日英相互理解のためにがんばって下さい」

どれほど感激し嬉しかったか、わかってもらえるー?!
黒川社長さん、本当にありがとうございました!!

その羊羹が大評判だったのは、何と、近所の子どもたちの間で、
「お姉さんの国のお菓子よ」
と言ってあげたら、みんな「おいしい、おいしい!」 と言って食べた。

子どもは先入観なしに、素直に味わうことができるんじゃないかな。
こっちの方が、本当の感想レポートだったかもしれないね!

もちろんお礼といっしょに、黒川社長さんにそのこと書き送ったよー。


さて、6月に私はオックスフォードに戻ってローアー ケンブリッジを受験。合格したよ!!
これも毎日、日本語いっさいナシの英語の環境にいたのと、ワトソン氏がテキストの答え合わせや面接の会話練習、作文の添削など、受験勉強の個人教授になって下さったおかげだ!

それでね、一番上の試験、ケンブリッジ プロフィシェンシーを目指す決心をした。
前にも解説したけど、この試験は ”精通した”って名前の通り、ほんとにレベルの高い試験なんよ。
日本人はほとんど受からないっていう…。
(まだこの時点で、日本人の合格者は全世界で 2,000人だけだって)
何年かかってもいい、ここまで来たらやっぱり合格したいよね!

それでワトソン家の家族との話し合いの結果、
やっぱり私は夏休み明けの秋の学期から、オックスフォードで学校に行かせてもらうことになった。

その代わり、週末や長いお休みにはできるだけマムに会ったりお手伝いしたりするためにワトソン家に帰って来るという約束で。
自分の家に帰るように。

そしてオックスフォードではワトソン家所有の学生アパートのひとつに住まわせてもらい、簡単なアパート管理を任されることになった。

共有部分はもちろん、明け渡しの部屋の掃除、留守中のワトソン氏の居住空間の掃除、郵便物をウェールズに転送したり、
部屋を借りる問い合わせ電話の取次ぎをしたり、
アパートのどれかの設備が故障したら、ワトソン氏に連絡して水道屋さんや大工さんの修理に立ち合ったり。

もちろん、ワトソン氏オックスフォード滞在中は、私が食事の世話をする。
それで、一般のオペアと同じ条件である、"部屋と食事とお小遣い付き"で、その上、学費も出していただくことに。


マムは、私がオックスフォードに帰ると聞いてひどく取り乱して、
「あの子をお風呂場に閉じ込めて!」
とか、
「あの子を、あの子のお父さんに頼んで買いたい」
なんて、わけのわからないことを言い出した。

アネッカは、
「もちろん、できるだけ安い方がいいけど」
なんて笑って言ったけど。

ワトソン氏は、
「母が人前でこんなに取り乱したのを、初めて見た」
って、痛く感じ入っていた。
そして、
「あなたは不幸続きの我が家に、太陽を持って来てくれた。
本当に感謝しています。 ありがとう」

見も知らぬ土地で、私のおいたちや今まで歩んで来た道について全く知らない人たちと生活して、ここまで言ってもらえるなんてネ。 
(´Д⊂グスン

言葉の壁があっても、人と人はこんなふうに心が通じるんだってこと、そして誠意を尽くして何でも一生懸命やっていれば、いつの間にか道が開けて行くってこと、実感してるし、
今たまたまラッキーなのかもしれないし、こんな状況がいつまで続くのかもわからないけど、今は素直に嬉しいよ。

オックスフォードでまた勉強と仕事、来年6月の受験まで一年間がんばるからね。
(応援して!)






追記:

虎屋さんのホームページを開いて見ましたら、社長さんのお名前が
黒川さんでした。
当時の社長さんなのか、息子さんなのかはわかりませんが、その節は、
外国の田舎で日本を理解してもらおうと奮闘する名も無い一大和撫子
(??) に大きなエールをお送りいただき、本当にありがとうございました。
おかげさまで、心細い異国の地でがんばる力になりました。
心からお礼を申し上げます。







オックスフォードの学生アパート


下宿の庭


新しく住むことになった、ワトソン家所有の学生アパートの
裏庭を、2階の部屋から眺めたところ。
左の物置がなければ、けっこう広い。

遠くに見える建物もみな同じような造りのアパート。
だいたい3階建てくらいで、屋根裏部屋に半地下室もある。

私の部屋は、半地下室だった。




下宿の庭隣人と


庭のレンガ塀越しに、隣の住人の大学院生と世間話