2-25 新しい下宿とルームメイト 


10月に始まった新学期。

学費も生活費もギリギリだけど、クラス分けテストの結果発表の時、2級上のクラスに入れられ、先生がホワイトボードに ”はしご” のイラストを描いて、

「ミヤはがんばった。ひとクラス飛び越して上がったのよ。」

って言ってくれたのは嬉しかったけど…。

(日本であれだけ高度な英語の勉強を中学、高校、そして大学の数か月間と何年もさせられたことを思うと、ABCの発音から始める初級クラスから上に上がるのは当然という気はする)

学校で紹介された新しい下宿はオックスフォード北部にあるサマータウンにある、コインランドリーの二階。
今度はメキシコの美少女アレハンドラとの同居生活が始まった。

大家さんはピーターという1才の男の子を抱える若き離婚婦人、ミセス ブライアン。

どう見ても1人部屋のスペースしかない、6畳あるかないかの細長い部屋は、両端にベッド、勉強机ひとつに、椅子ひとつ、それに肘掛け椅子ひとつでいっぱい。

朝食付きで16ポンド(今の感覚で1,2,000円くらい?)だけど、その朝食は、オレンジジュース、コーンフレーク、トーストにコーヒー。
それだけ!!
ミセス ブライアンはお勤めに出ているので、セルフサービス。

他の下宿では同じ家賃でベーコン&エッグが出るのにと、アレハンドラといつも不平を言っていた。

キッチンも使わせてくれず、一度、許可をもらってお料理を作ったら、私たちの食べている目の前でミセス ブライアンがガチャガチャと大きな音を立てながらガス台を分解して洗い始めたので、喉が詰まってしまった。

その上、セントラルヒーティングも8時に切られてしまうので、フィッシュ&チップスかハンバーガーのお持ち帰り食を狭い部屋でオーバーにくるまって侘しく食べている。

お風呂の浴槽には常に洗濯物が入っていて、週に一度、遠慮しながら入れればいいところ。


アレハンドラはメキシコ ○○○市の市長の娘さん。
色白で金髪で青い目が魅力的。
彼女に言わせると、メキシコでも上流階級の人は白人系で、絵や映像でよく見るメキシコハットにポンチョを着ている色黒の人は、貧乏人なんだって。

アレハンドラはわがままいっぱいに育ったみたい。
毎晩のようにディスコに踊りに行く彼女は、ボーイフレンドも次から次へ…。

「ミヤ、どうしてそんなに勉強しているの?
もっと楽しまなくちゃ。
いっしょに行こうよ!」

「私は家にいる方がいいの。
その日に学校でやったことを全部覚えないと気が済まないの。
それに宿題もあるし。」

いい子に聞こえるけど、ほんとなんだよ!
それに私の宿題ときたら、いっつも秀作として貼り出されてんだから!
(英語の作文だい! その日に習った単語やイディオムをフルに使った意見文や物語を書く)

でも”いい子”って言ったって、先生に気に入られるためとか、親を安心させるためとかじゃない。
自分が充実感を持てるからそうしてるだけだよ。
そうすることで 「私はこれでいいんだ」って、しっくりした気持ちになる。


私がバイトのない日、ひとりで編み物などをしていると、ピーターを寝かしつけたミセス ブラiイアンが部屋をのぞきに来て、

「ミヤ、良かったらこっちへ来ていっしょにお茶を飲まない?」
と言ったりするようになり、

「ミヤ、私、あなたが好きよ。
友だちといるより、あなたと一緒にいる方がいいわ。」

と、休みの日などには私と一緒に勉強してくれたり、他愛ないおしゃべりをして笑い転げたり、美容体操の研究にいそしんだりするようになった。
ボーイフレンドが来ても居留守を使う程に。

最も昼間から顔にパックをしていたせいもあるけれど。


そんなある日、亮介にいから一通の手紙。

「仕事も終わり、やっと一息ついたところだ。
毎日忙しく、いろんな人と夜中まで話し、とても充実した毎日だよ。

スカンジナビア3,000キロ、全部ヒッチで回った。
2万円(今の7万円くらい?)で友だちと一緒にワーゲンバスを買った。
これからまたスペインに下る。

僕は若き日の思い出にサハラを越えてみたいんだ。
暗黒の裸の野生の黒人の ―
友だちも、もう4年も世界を回っている人たちだ。

今月中旬、パリの友だちのところに着くから、そこで会おう。
ミーヤに会わせたい奴もたくさんいる。」


私は飛び上がった。
行く、行く!!
パリに飛んでく!
亮介兄さんとその仲間たちに会いに!

でも正直言って兄さんとその仲間たちと一緒に旅に出ようとは思わない。 
私はもうすっかり英語の勉強に取り憑かれてしまっている。

”勉強すればするほど、もっといろいろなことについてわかったり話したりできるようになる”

っていう現実がおもしろくてたまらないんだ。

学費と生活費でギリギリの私にとって、学校の授業の1時間1時間はすごく貴重だ。
この限られた時期に少しでも多くのことを身につけて、自分の英語のレベルを上げておこうとがんばっているんだから。

そこで私は金曜日に授業が終わってからパリに出かけ、月曜日の一日だけ学校を休みその日に帰って来ることにして、さっそく学生料金の夜行列車とフェリーの切符を買った。

ところが…
アレハンドラにそのことを話したらたーいへん!!
彼女もいっしょに来るって言い出だした。
(「メイ アイ?」 でなく、「アイ ウイル ゴー ウイズ ユー」)

日本人だったらここまで話したら遠慮するよね、広い世界のあっちこっちで離れ離れになってた兄と妹が、たったの2日間やっと一緒に過ごせる大切な時間だよ!
他人の世話なんかしないでゆっくり積もる話がしたいじゃない? 

あー、何て災難… そこで私としたことが…!

「いっしょに連れて行きたいのはやまやまだけど、兄さんに会いに行くのがメインだし、日程も週末だけだから、いっしょに来てもゆっくり観光もできないと思うし、今からじゃ切符を取るのも難しいと思うよ」

って、ちょ~~日本人的な返事をしちゃったんだ!


アレハンドラはその翌日、私の切符を私の引き出しから無断で持ち出して旅行代理店に出かけ、一方的に事を運んでしまい、町でバッタリ会った私に、

「ミヤ、切符、買えたわよ。日にちも変更できたわ。1週間に。
それからね、この子も一緒に行くの。」

と、そばにいる真っ黒で縮れ毛の、ベリンダという友人を紹介した。

親しいからって甘えているのか、それとも私の、日本人特有の、イエスかノーかはっきりしない遠まわしの断り方をいいように解釈したのか… 
(ソーダヨ! 大バカ!)

私は結局、この美少女の無邪気さ強引さに全面降伏するしかなかったんよ。 

あー、どーなっちゃうんだろう …。
先が思いやられるよー …。
  




     ウェールズへの小旅行


同じ学校の生徒でポルシェに乗っていた「ポルシェさん」 と、
いつも一匹狼風でいた 「キザ男さん」 。

何かの話のついでに、
「週末にウエールズにドライブに行くけど、一緒に連れて行ってあげよ
うか?」 と言ってくれたので、乗っけてもらって行って来たよ。




ウェールズへの道

イギリスはどっちを見回しても緑ばっかりって印象あるけど、ちゃんと
紅葉もある。





ラグラン城跡 (絵葉書)

ウエールズの城


ウェールズには、こんな廃墟となったお城がいくつもある。
堀あり、橋あり、城壁あり、塔ありで、ほんとにおとぎの国に出て来る
お城、そのままじゃない?
王子様やお姫様や騎士は、ここで実在していたんだね!

きっと華やかな生活があったんだろうね。

♪ 春こうろうの花の宴、めぐる盃、影さして…(中略)
  昔の光、今いずこ

”荒城の月” を思い出した。




ウエースズの城跡



ラグラン城



廃墟

これも廃墟  修道院の跡みたい




ウエールズ馬

ブレコン ビーコンの近く (絵葉書)



馬が車に

全く絵葉書の通りだ!



ウエールズ牧場

ポルシェさんです




ウエールズ海岸2

ウェールズの海岸



カーディフ大学

カーディフ市役所庁舎 


カーディフ大学建物一部

カーディフ市役所の時計塔 市役所なのに芸実的



カーディフの公園

お城のある公園



ウエールズの城4

カーディフ城だと思う。



王子と姫?

こちらがキザ男さんです。
(王子と姫にしては、姫のコスチュームが…





2-26 再びパリへ 


ドーバーまでの英国電車は、「決して乗客を立たせるほど切符を売らない」
という英国鉄道の信条通り、赤いベルベットのシートにゆったりだったけれど、向こう岸のフランスの港町カレーからは超満員。

指定席とは知らず、私たちは3人とその他の慌て者の乗客がコンパートメント(個室になっている客席)に腰を落ち着けたところ、
一人のきちんとした身なりの日本人男性が踏み入って来て、眉間に皺を寄せ腕を振り回しながら、すごいけんまくで叫んだ。

「アウト! アウトーッ!!」 (出ろ! 出ろー!!)

まるで家畜でも追い出しているようだった。

私は日本人として穴があったら入りたい気分だったよ。
私以外はみんな外人だ。
その人たちに向かって、

「すみません、ここは指定席なのですが…。」

なぜその一言が言えないんだろう。

立ち退く私たちの後に入って来たのが、全員、毛皮のコートを着た日本人有閑マダムと若い令嬢風グループ。
その男は雇われガイドなのだろう、その人たちに対しては大そう腰が低く、打って変わったように終始満面に笑みを浮かべていた。

パリに着くころ、通路に立ちっぱなしの私にお声がかかり、ひとつ空いていた席に座らせてくれたのはいいんだけど、

ジーパンのロングスカートに褪め切ったTシャツ、毛玉のいっぱいついたカーディガンに黒い毛糸のストールをジプシー風に羽折っていた私が、毛皮に埋もれて何倍も大きく見える彼女たちの間に入り込むことはとてもおかしく思えた。

また彼女たちの会話ときたら、お城を買う話、ヨーロッパの各地の高級レストランの話など、私からすると鼻持ちならないものばかりで、(ひがみじゃないってばぁ!) しまいにはそのイヤな雇われツアーコンダクターを指さして、

「こういう男性は女性の憧れね、有能で世界のあちこち飛びまわって。
きっと泣かされる方も多いでしょうね、オホホ。」

ゾーッ。

パリの北駅に、亮介兄さんの友だちの山口君が迎えに来てくれた。
彼はパリで絵の学校に通っているんだって。
私はあまり話したことはないんだけど、小さい頃はラオスで暮らしていたとかで、両親が海外赴任のため、中学・高校と、亮介兄さんと同じ男子校の寮に入っていた。
時々、兄さんといっしょにギターを弾いたり絵を描きに行ったりして、自分で曲も作っていた。
日本人だけど、なんか違う雰囲気を持った人だ。

パリの裏町のアパートは、階段の電気がスイッチを押して30秒で切
れる自動節電式。
トイレには鍵がかかっていて、住人だけが使えるようになっている。

そのトイレはいつかどこかのカフェで見た、しゃがみ式、四面剥き出しのコンクリート、足台の部分だけ残して洪水の押し寄せる、パリの名物だった。

お風呂もない!

その界隈は黒人やアラブ人が多く、とても女の子の一人歩きはできないそう。
(ごめんなさい。差別的言動だけれど、聞いたままを書くよ。)

山口君は、夜になると私たちに部屋を開け渡して友だちのところへ泊まりに行き、翌日の夕方アルバイトが終わると迎えに来てパリの街の案内してくれた。

私たちのためにアルバイトを休み、まる一日、昼間のパリを見せてくれた日もあった。
エッフェル塔とセーヌ河下りにはまだ行ったことがなかったから良かったけど、まだ行っていないアレハンドラとジョアンナのために、パリ名所筆頭の凱旋門、ノートルダム寺院、シテ島にも行ったんだよ。
(何回目だぁ~っ?!)

その山口君、アレハンドラのエゴ発揮ぶりに、
「ミヤちゃん、今度は日本人の、もっといい子を連れておいでよ。」

グサッ…。
ほんとに私がいけなかったんだ。
はっきり断れなかったから。
そういう時は、たとえどんなに親しくなってもはっきりキッパリ断れなくちゃね!
遠回しの断り方も×。
日本人同士で通用しても、育った環境も物の考え方も違う外国の人には真意は伝わらない。

亮介兄さんは、3日待ってもまだ来ない。
どうしちゃったんだろう… 途中で何かあったのかなぁ…
心配だヨー…。


そんな夜中のこと、アレハンドラが突然、叫び出したんだ。
「かゆい! かゆいーっ! たまらないっ!!」


それで、とんでもないことに…。





          プチ パリ案内




エッフェル塔

曇りの日のエッフェル塔 (写真 from フォトライブラリー)




セーヌ河より

セーヌ河下り (写真 from フォトライブラリー)





パリ市庁舎    パリ市庁舎500



                   パリ市庁舎
  
    別の時に撮った、夕陽を浴びるパリ市庁舎。
    なぜか建物に、赤いリボンや紋章のような装飾がしてある。
    お祭りの期間とかだったのかな。




パリ市庁舎400

                パリ市庁舎 上と同じ建物
                (写真fromフォトライブラリー)